「曇天を歩く!」―ウォーカーズ王子遠征記―
大会社の社名に何故か王子、十条、鐘淵等の地名が冠してあるのを不思議に思いながら日本経済史を学んだ記憶がある。明治39年、学生だった祖父が夏休みの帰郷時に札幌―東京間を汽車で旅した記録の中に「赤羽辺りより夜明けたれば王子の諸工場より風に漂う黒煙の勇ましく、煉瓦作りの高楼、煙突を挟みて幾許となり連なれる」とあった。
今回は、その王子の製紙会社の創業者にして、飛鳥山に邸を構えた渋沢栄一の足跡を辿るコースを北区観光ボランティアガイドの案内で歩いた。「渋沢栄一(特にお札)と馴染みになりたい方は是非ご参加下さい」との大山リーダーの呼びかけも奏功してか?参加者9名。王子駅北口より「音無(石神井川の別名)親水公園(旧河道)」沿いに料亭「扇屋」跡から王子神社参道へ、戦車も渡れるという頑丈な音無橋(昭和5年架設)に上がり、王子駅から登ってくる都電荒川線の車両を観つゝ本郷通りを渡る。緩やかな坂を登ると飛鳥山々上に。広場あり遊具あり、土曜日で家族連れで賑わっている。緩やかな傾斜地には桜の木々、其処此処には石碑が並ぶ。中でも将軍吉宗所縁の「飛鳥山の碑」は紀州の大石に碑文が刻まれ、一見の価値あり。
南北に細長い山上の南側には広大な渋沢邸跡が続く。現存する建物である晩香廬、青淵文庫とを庭園から眺める。ランプシェードやステンドグラスが優雅で美しい。等身大の翁の銅像もあり又、山形亭跡の傍らには三つ葉葵の紋が刻まれた大きな銅灯籠がひっそりと佇んでいる。
飛鳥山名物だった「かわらけ投げ」の“舞台”から新幹線や製紙工場跡地を見て山を下り、駅前の「洋紙発祥地の碑」を最後に訪ね2時間弱のウオーキングを了えた。駅近くの「ヴェネツィア風酒場」にてパスタランチを楽しみながら、各々の「王子」を語り合い散会した。
(私事で恐縮だが、散会後、小生は再び音無橋から「旧醸造試験場」まで足を伸ばした。此処は昭和12年、農芸化学を学び専売局に就職した亡父が「アルコール専売事業」の技術要員として「新入社員研修」をした場所でもある。跡地の公園と煉瓦作りの旧第一工場を外から眺め、父も利用したという「扇屋」所縁の「厚焼き玉子」を土産に買い、家路についた。)
吉川文夫 記
参加者(あいうえお順、敬称略)
井口 政次、大内 澄男、小谷野 俊夫、芹沢 徹、橋本 美恵子、武藤 章、前田 昭子、吉川 文夫、(世話役) 大山 徹